2『魔導列車とサソリ便』 学習して現在に知識を得て、 研究して過去に事実を知り、 開発して未来に利器を創る。 文明はそうして拓かれる。 三大国の境界点にある都市としてフォートアリントンはあまりにも有名だが、同じように国と国との間にある街は存在する。そしてフォートアリントンと並んで有名なのが“世界の最先端”と称される『エンペルファータ』である。 その名が表す通り、エンペルリースとカンファータの国境線上にある街なのだが、この街の名を不動のものにしているのが、ありとあらゆる分野の技術開発と研究が日夜行われている魔導文明の先頭を行く『魔導研究所』の存在だ。 カンファータとエンペルリースの国中からスカウト、もしくは最高難度といわれる試験に合格して集まってきた最上級の人材がこの魔導研究所内で働いている。 開発部としては、軍事用の魔導兵器を開発する『軍事部門』、より豊かに暮らす為の『農林水産部門』、より便利に暮らす為の『文化生活部門』その他、様々な部門に別れ、その中でも作るものによって何チームにも別れて魔導機械の開発を行っている。 その他にも森羅万象を理解せんとする研究部があり、ここに世界の英知が集まっていると言っても決して過言ではない。 ただ世界と言っても三大国全体ではなく、カンファータとエンペルリースからだけでウォンリルグからの人材はいない。 魔導研究所設立の発案当時は三大国合同でフォートアリントンに建設する計画だったのだが、三大国による国際会議にこの議題が上がると、ウォンリルグが自国から人材と技術が流出するのを嫌って、この計画から降りてしまった。 そこで、カンファータとエンペルリースの間だけで話が進み、両国の国境上に新しい街を作って魔導研究所が設立された。以来飛躍的にカンファータとエンペルリースの魔導文明はここ数十年、日進月歩の勢いで進歩を続けている。 ウォンリルグは独自に研究・開発活動を行っているらしいが、どの程度進歩しているのかは誰も知らない。しかし、二国の力を結集しているエンペルファータの魔導研究所の方がウォンリルグより進んでいるというのが一般論だ。 実は三大国と言っても友好的とはっきりと言える関係にあるのはカンファータとエンペルリースだけで、残るウォンリルグとは両国ともほとんど交流のない、喧嘩をしない約束をしただけの、ほとんどアカの他人と代わらない関係だ。 カンファータとエンペルリースは困った時は援助を要請したり、相手が困った場合は助けてあげたりする関係だが、ウォンリルグは助けることも助けを求めることもしない。 それが、ウォンリルグが“孤高なる国”と呼ばれる所以だ。 「……なるほど、さすが育ったところだけあって詳しいモンだな」と、感心した様子でその青年・リク=エールは言った。 短かめの栗色の髪にエメラルドグリーンの眼を持つ中肉中背の男で、成年はすでに迎えているが、それにしては少し幼さの残った顔立ちをしている。 魔導研究所とはどんなところなのかというリクの質問から、今まで得意満面に語っていたのは、黒髪に眼鏡を掛けた一見真面目そうな印象を与える少年はカーエス=ルジュリス。その口調はその真面目そうな風貌からは想像出来ないほどひょうきんな方言だ。 胸を張り、鼻を今にも高く伸ばしそうな勢いで真上に向けているカーエスだったが、そこに彼の真向かいに座っている金髪の美女・ジェシカ=ランスリアが口を挟んだ。 「何を威張っている、眼鏡男」 女性にしては無骨な言葉遣いだが、彼女はその言葉遣いにあった服装をしている。 巻き毛気味の金髪は後ろで大きく一束の三つ編みにまとめ、その全身には動きに支障がない程度に軽甲冑を着込んでいた。 「貴様は教科書通りの事を話しているだけではないか。私がリク様にフリーバルの事を尋ねられたならば、日夜問わず解説し続け、リク様を王都の獣道に至るまでを知り尽くす事情通にして差し上げると言うのに」 「……それ、単なる拷問ちゃうん?」 「ま、百聞は一見にしかずだ。着いたらいろいろ案内してもらうか。フィリーもよろしくな」と、リクは彼の向かいに座っている少女に眼を向けた。 真直ぐな黒髪を腰まで伸ばした可憐な少女だ。黒いローブという地味な服装に首飾りから足首まで、揃いのアクセサリーを着けている。 リクの言葉にフィリーと呼ばれた少女、フィラレス=ルクマースは少し顔を赤らめてこくりと頷いた。 「え〜乗客の皆様、まもなく終着駅エンペルファータ、エンペルファータでございます。お降りの際は忘れ物のなきよう、お気を付け下さい。この度はコーダのサソリ便を御利用下さいまして、まことに有り難うございました。まもなく終着駅エンペルファータに到着いたします」 その声は今、彼ら四人がいる部屋の外から聞こえてきた。 この部屋は、実は運搬サソリの背にある客室で、運搬サソリ《シッカーリド》を運転している御者・コーダ=ユージルフは客室のすぐ前方にある御者席に座っていたのだ。 コーダは砂漠の生まれで褐色の肌に短く刈られた白髪を持ち、太陽光を反射しやすく風を通しやすい、ゆったりした白い衣を着けている。 「何だ、それは?」と、リクが客席の前方に付いている窓から顔を出して尋ねた。 「ははは、魔導列車の車掌さんのまねッスよ」 コーダが笑って答えると、今度はカーエスが顔と口を出してきた。 「え? 魔導列車乗ったことあるん?」 「ないッスけど、まあ、こんなモンでしょう?」 話しているところに轟音が轟いた。 見ると、エンペルファータに向けて走る《シッカーリド》と平行に走っている線路を噂の魔導列車が追い抜いて行く。 「おお、話には聞いてたけど、実際見るのは初めてだな」 「この列車はフリーバル=エンペルファータ間でもっともポピュラーな移動手段なのですよ、リク様」 いつの間にかジェシカも窓から顔を出している。その隣ではフィラレスも同じようにして、電車から来る衝撃波の風に髪を揺らしていた。 「じゃ、この線路を辿ればフリーバルに着けるのか?」 リクの問いにジェシカは頷いて答えた。 「途中他の町への分岐もありますが、そういうことですね」 「街の反対側にはエンペルリース方面への列車も出てるんやで。乗るには出国手続きがいるけどな」と、カーエスも負けずに付け加える。 しかしその後に余計な一言が付いた。 「しかも速い! 俺らが一週間掛けてきたこの行程も、ものの四日で済むんやで? こんなサソリとはエラい違いや」 「バカ…っ! カーエス!」 リクが血相を変えてカーエスの口を塞ぐが、一瞬遅かった。 コーダが肩ごしにじろりとカーエスを睨み付ける。 「……カーエス君、今聞き捨てならないことを言いやしたね?」 ***************************** 男は疲れきって椅子に座ったまま居眠りをしていた。 取った休暇でファトルエルに行き、話題の決闘大会を見に行ったわけだが、いい事ばかりではなかった。 妻と幼い息子には値段の高い買い物をさせられ、さらに大災厄に襲われそうになって、なんだかんだで仕事をしているいつも以上に疲れた休日となってしまった。 大会が終わった後、サソリ便でレンスに行き、そこでもう少し休暇を過ごしてからこのようにエンペルファータ特急に乗ってエンペルファータに帰ろうとしている。 「パパー、このれっしゃがいっちばんはやいの〜?」 目を閉じて明らかに寝ているにも関わらず、窓の外を見て興奮しっぱなしの息子は彼に質問を浴びせてくる。しかも往路も合わせて同じ事を十三回も聞かれている。 昨日も遅くまではしゃいでいたというのに、子供の体力というものはどうしてこう限りがないのだろうか。 彼が明らかにうるさそうに顔をゆがめると、妻が代わりに答えた。 「違うわ、一番速いのはパパが今作ってるクルマよ」 彼はエンペルリースで盛んであるレースに使う車を魔導研究所にて開発していた。 エンペルリースの魔導車産業会社に半分所属し、研究開発費用も会社から出ている。彼は数年前までは一般車の開発を手掛けていたのだが、最近彼の会社がレースに参入する事になり、その為のレース用魔導車の開発チームに選ばれてしまったのだ。 新参なのでどうにもノウハウが足りず、その割には社長の理想が高すぎるので、やれ遅い、やれ耐久性能が低いと文句を言われっぱなしである。 しかも研究・開発活動はやれば進むというわけでもない。 現に今彼は行き詰まっており、研究所に帰れば焦りと会社側の催促との板挟みになるだろう、と考えただけでもげんなりする。 「じゃ、このれっしゃって、なんばんめにはやいの〜?」 「そうね、少なくともカンファータの中だけだったら一番速いんじゃないかしら」 カンファータではレースは行われないので、確かにカンファータに限ればこの魔導列車が一番速いと言う事になる。 カンファータにも都会と呼べるところには車は走っているだろうが、それでも魔導列車より速い一般車は存在しない。 移動範囲が、車輪を通して魔力を供給し続けるレールの上だけと制限がある分、魔導列車の方が速いのだ。 「あっ、カニさん!」 「あら、アレはカニさんじゃ無いわよ。サソリさんよ。砂漠を渡る時に乗ったでしょう?」 妻が訂正したのを聞いて、彼はこんなところまで来るサソリ便もあるのかと心の中で感心した。 「サソリさんか〜、でもはやいね〜、どんどんこっちにおいついてくるよ〜」 馬鹿な事を、さっきカンファータではこの列車より速いものは無いって教えたではないか、と我が子の事ながら彼は少し苛立つ。 「何言ってるの、そんなに速いサソリさんはいないわよ」と、妻が子供に諭すのを聞いて男はそうだそうだと内心で賛同した。 「でもほら、あそこみてよ、ママ」 息子が食い下がる声に彼はまた苛立つ。 そしてまた心の中で妻に早く訂正してやれと催促する。 その期待に応えるように妻が口を開いた。 「……あら本当!」 否定の言葉を待っていた男は妻の言葉にズルッと尻を滑らせ、危うくシートから落ちそうになった。 「おい、君まで何を言い出すんだ!?」 すると妻は困った顔をして窓の外を指差す。 「でもあなた、あれ見てみてよ」 男は仕方がない、とでも言いたげに深いため息を付いて身体を起こし、妻と子が指差す窓の外を覗く。 次の瞬間、その目は丸く見開いた。 「な、なんだありゃ!?」 爽快なスピードで後方に向かって流れていく車窓の景色、その中でその運搬サソリだけが前方に向かって動いていた。その足の動きは常軌に外れた速さと力強さで身体を前へ前へと進めていく。 明らかにその運搬サソリはこの列車を上回るスピードで走っていた。 何故だ、とも、信じられない、とも彼は思わなかった。 彼は感心していた。 (魔法で、ここまでできるのか……) たくさん荷物を乗せて砂漠を渡るしか能がない運搬サソリをあれだけ速く走らせる事ができるのだ。あれだけの魔法の技術をもってすれば車はもっと速く走るに違いない。 彼は、さっきまで感じていた憂鬱感がすっと晴れて行くのを感じた。 その運搬サソリが彼らの視界から消えた時に車内放送が入った。 『え〜乗客の皆様、まもなく終着駅エンペルファータ、エンペルファータでございます。お降りの際は忘れ物のなきよう、お気を付け下さい。この度はエンペルファータ特急を御利用下さいまして、まことに有り難うございました。まもなく終着駅エンペルファータに……何だ、ありゃ!?』 ***************************** 平行して走る線路と道路を除けば周りには何も見えない荒野にある卵型の都市。それがエンペルファータだった。 街の周りは高い塀に囲まれており、魔導列車の線路と道路はその塀にポッカリと開けられた門に通じている。 車道用の穴の傍には、滅多にないが歩きでここまで来る人の為に、小さな入り口が設けられていた。 そこにリク達五人が歩いてくる。さすがに運搬サソリは街に入れないらしく、サソリ便でやってきた彼らは街の外で降りて歩行者用の入り口から入るのだ。 もっと入り口に近いところで降りても良かったのだが、御者のコーダが他人に《シッカーリド》を“しまう”ところを見られたくないといい、すこし離れたところで降りたのだった。 そのコーダは上機嫌な様子でカーエスの前に回り込み、虚ろなカーエスの眼前にVサインを突き付けて言った。 「どうスか、カーエス君? あれでも《シッカーリド》は魔導列車より遅いと言いやス?」 カーエスは病人のようにふらふらと足元危なく歩いていた。 その目にはうっすらと涙が見えており、身体は老人のように曲がって、いつ嘔吐しても不思議ではない。 「な、何で久しぶりの研究所に帰ってくんのにこんな目に遭わなアカンの……?」 そう言ったカーエスの声はもう少しで吐きそうなところをギリギリで我慢している為に少しくぐもったものになっている。 「そりゃ、お前がコーダを焚き付けるようなことを言ったからだろ」と、言い返すリクだったが、彼も先程までは青い顔をしていた。しかしエンペルファータに到着した興奮のせいか、今では正常な状態に戻っている。 その後ろにいたジェシカはカーエスを見て大きくため息をついた。 「軟弱者め、あのくらいの揺れで参るとは情けない。私が海上軍事訓練に参加した時など船が渦巻きに飲み込まれそうになって縦には揺れ、横にはグルグルと……」 「うっ……!」 想像してしまったのか、カーエスは奥から酸っぱいもの込み上げてくる口元を抑え、その場にうずくまった。なんとか嘔吐だけは堪えたが、そうとう消耗したらしく立ち上がったカーエスの顔が心無しかげっそりして見える。 そんなカーエスの背中を、フィラレスが心配そうな顔をして撫でてやっていた。彼女は意外とタフなもので、あの猛スピードが生み出す強烈な揺れにもほとんど動じる事がなかった。 「うう……すまんのう、俺の味方はフィリーだけやなぁ……」 涙ながらに感謝するカーエスを見たリクは何かを思い付いたように含み笑いを浮かべた。 「ジェシカ、そんなのまだ序の口だぜ? 俺とファルが乗った船なんかすげー海がシケてきやがってさ、波なんてパイプみたいになって船がそん中を転げ回るわけだ。もうどこが上なんだか下なんだか……あんなのでよく目的地に着けたモンだ。でもあの後、船内の掃除大変だっただろうなぁ、あちこち“アレ”まみれでさー」 わざわざカーエスにも聞こえるように言うものだからたまらない。 “アレ”を想像してしまったカーエスがうっ、と顔をしかめてうずくまった。 「あ、あんたはオニかァッ!?」 「英雄だ」 しれっと即答したのはジェシカである。 その言葉にリクは苦笑しつつ首を振った。 「英雄なんて大それたもんじゃねーよ、ジェシカ。ただのいち魔導士だ。しかし人をからかうのがこんなに楽しいモンだとは思わなかった。ファルがいつも俺をからかっていた気持ちが分かったような気がするよ」 リクはそう言って、からからと笑った。 少し歩いたところで入り口に着いた。 小さな窓口の中にいた中年の役人が暇そうにふかしていたタバコを灰皿に置いて対応する。 「え〜と、あんたらは移住希望者? 単なる観光? 許可は得てる?」 あまり態度の良くない役人だ。だからこそ滅多に仕事のないこちらに回されたのかも知れない。そんな役人にカーエスが弱り切った顔で小さな棒のようなものを差し出した。その隣のフィラレスも同じように棒を取り出した。 棒の片端には彼らの名前が刻まれたプレートホルダーが着いており、はた目にはカギのように見える。 「俺とフィラレスは研究所関係者、後のは俺等の招待客や」 「研究所関係者?」 役人は棒を取り上げると、彼の正面にある机に乗った立方体の箱の穴に差し込んだ。 すると、その穴のある面の対面に着いていた水晶の玉が光り始め、向き合って配置されているスクリーンにカーエスの写真と彼の情報らしき文章が表示される。 カーエスの棒を箱から抜くと、今度はフィラレスの棒を立方体に突っ込んだ。同じように彼女の写真と情報がスクリーンに表示された。 「確かに」と、役人は棒をカーエスとフィラレスに返す。そして机の引き出しに仕舞ってあった紙を三枚、カーエスに差し出した。「招待客の人はこれを書いて」 カーエスがリク、ジェシカ、コーダに用紙を回し、それぞれ必要事項を書かせた。 「面倒だなー」と、リクは記入をしながら不平を漏らす。 「ああ、結構厳しいねんで。犯罪者が中に侵入でけへんように、許可された人以外は入られへんようになってるんや」 「さっきの棒みたいなやつは何なんだ?」 「ああ、コレ?」と、カーエスはポケットからさっきの棒を出してみせた。「“己が証たる鍵”って名前なんやけど、メンドいから皆は単に“鍵”って呼んどる」 「ふーん」と、リクは相槌を打ちつつ、ペンを置き、用紙を持ち上げて出来栄えを確かめた。「うし、出来た」 カーエスが三人分の用紙を回収し、そわそわと落ち着きなく待っていた役人に渡す。 彼は受け取った用紙にさらに何かを書き込むと、机の上にあった入れ物の中に入れ、カーエスやフィラレスと同じ“鍵”を渡す。 「大事なものだから無くさないこと。それから、街から出る時に返すように、以上」 そう言うと、役人はやっと厄介ごとが片付いたとでもいう様子で、リク達が去らない内に新しいタバコに火を付け、くつろぎ始めた。 ***************************** 「ここがエンペルファータかぁ!」と、リクは、感嘆の息をつきながら街の門を潜った。 好奇心に満ちたその目は、行き場に迷ってきょろきょろと落ち着きなく視線を振り回している。 エンペルファータの街は師・ファルガール=カーンと共にあちこちを旅して廻ったリクが知るどの街よりも進んだ街だった。 天にも届きそうな摩天楼、歩道の脇をとんでもないスピードで行き来する魔導車、機能より外見を重視したファッション、街道沿いにある店に所狭しと並べられた魔導文明の利器、そして大河を流れる水のようにゆっくりと道を流れていく人間達。 こんな街こそが栄華を極めた街と言うのだろうか。 何よりも驚いたのは気温だった。 さっきまではジッとしていても汗がにじみ出てくるような暑さだったというのに、エンペルファータの街の気温はかなり快適な涼しさだ。 「目には見えへんねんけどな、この街をドーム状にバリアが張られとるんや。バリアん中はいつでも快適な温度に保たれとる。雨も防ぐからホンマは屋根なんていらんし」 「さすが、ハイテクだな〜」 リクが心底感心した様子で言うと、カーエスは得意顔で胸を張る。 その胸をジェシカが槍の柄で突き、カーエスは見事にそっくりかえって尻餅をついた。 「どわっ…!? 何すんねん、このヤリ女!」 「だから何故貴様が威張るのだ。あのバリアは貴様が作ったものではないだろう?」と、ジェシカは柄を向けていたヤリをくるりと回転させ、穂先を突き付ける。 「だからって何でいちいちどつかれなあかんねん!?」 「その隙だらけどころか隙しかない歩き方を見ていれば、何もなくても突きたくなる」 最近ではすっかり定着してしまったカーエスとジェシカの掛け合いを見て、コーダは笑いを噛み締めながらリクに言った。 「あの2人、すっかり仲良くなっちゃいやしたね」 「全くだ」と、リクも笑って同意する。「お陰で俺も退屈しねーよ」 フィラレスにも話を振ろうと彼女を振り返ると、フィラレスの視線があらぬ方向を向いていることに気がついた。彼女の視線の先に目をやると、そこにはこの街でも一際目立つ、積み木を極めて芸術的に積み上げたような建物があった。 視線をフィラレスに戻すと、彼女と視線があった。 「あれが魔導研究所なのか?」 リクの問いにフィラレスはこくりと頷いた。 彼女が視線をそこに向けていた訳は分かった。しかしリクはどうしても聞くことが出来なかった。 なぜ魔導研究所を見て、あんなに物憂げな表情をしていたのかを。 |
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